大学1年生の春のことです。数学の時間にA君と二人で問題を解きました。私は、公式を使ってすっすっすっと。A君は、紆余曲折しながら黒板いっぱいに解答を書きました。その時の教授は、私の解答を「シャープですっきりしていい」と評価してくださいました。けれども私は、A君の解答に愕然としたのです。
それは、解答の中にA君自身を感じたから。悩んで迷って行ったり来たり、彼の苦闘がそのままそこに映し出されていました。その道すじが見えるのです。二人とも答えは同じ。でも、確かにA君はその中で生きていた。私のは、公式さえ知っていたら誰が解いても同じ解き方。しかも、公式を忘れたらもう二度と解けません。でも、A君は公式そのものを導き出せる。どちらが生きる力があるのか……悔しいを通り越して、感動にふるえました。同時に、せめて自分の人生には、きちんと足跡を残せるように生きたいと思ったのです。後悔しないように生きたいと。
純粋でひたむきだった18歳の春の思い出です。今の私はどうでしょう。あの頃の自分に、あの感動を感じた自分に、ちゃんと自分の足跡を残しながら生きてるよって言えるかな。そうありたいと改めて思っています。