立命館大学教授で医学博士、臨床心理士の宮口幸治先生の『ケーキの切れない非行少年たち』は、現在図書館では50人待ちという人気の本です。私は、この本を読んで衝撃を受けました。宮口先生は、非行少年に共通することとして、次の5つをあげておられます。
①認知機能の弱さ…見たり聞いたり創造する力が弱い。
②感情統制の弱さ…感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる。
③融通の利かなさ…なんでも思い付きでやってしまう。予想外のことに弱い。
④不適切な自己評価…自分の問題が分からない。自信がありすぎるorなさすぎる。
⑤対人スキルの乏しさ…人とのコミュニケーションが苦手。
加えて、身体的な不器用さ、つまり、力加減ができなかったり身体の使い方が不器用だったりすることが共通なのだというのです。実際、何かを見て写して描かせた図は、ゆがんで見えているその子の状況をくっきりと映しだしています。ものが、そのとおりには見えていないのです。そのとおりには聞こえていないのです。当然、見えない気持ちを想像しようにも、推し量るもとがないのです。そんな子どもたちとのかかわりの中で、叱責したり訓練させたりしても、そのほとんどがこちらの意図に反して伝わっていないのが現実だというのです。
ショックでした。指導だと思ってやってきたことが、ゆがんで見えたり聞こえたりしているという事実。それは、何の役にも立たないどころか、かえってその子に悪影響を及ぼしていたのかと思うと、自分のしてきたことを振り返らずにはいられませんでした。
そんな少年たちが変わるための動機づけには、自分に注意を向け、見つめなおすことが必要だと先生は言われます。実際、その子たちが変わろうと思ったきっかけに共通しているのも、これまで社会で失敗し続けて自信を無くしてきた彼らが、集団生活のさまざまな人との関係性の中で、『自己への気づきがあること』『自己評価が向上すること』だというのです。ですから、我々としては少しでも多くの、かつ様々な気づきの可能性のある場を提供し、気づきのスイッチを入れる機会に触れさせることが大切です、と。これは、矯正教育だけでなく、学校教育でも同じだと。そして、長年矯正教育に携わってこられた方が言われた言葉、「子どもの心に扉があるとすれば、その取っ手は内側にしかついていない」。沁みます。そのとおりです。説教や叱責などによって無理やり扉をあけさせるのではなく、子ども自身にできるだけ多くの気づきの場を提供すること、それが教育なのです。
本当にいろいろと考えさせられる一冊です。ぜひ手に取ってみてください。
来週のブログは、西日本を移動していますのでお休みとさせていただきます。どうぞも皆さまお元気で~