教師生活5年めくらいの頃、算数の机間巡視(きかんじゅんし)のことで言われました。

「あなたは順に声をかけている。でも、それでは時間がかかりすぎないか。ちょっと分からない子から声をかけた方が合理的だし、現実的だと思う」。

そうだなと思う反面、それでは、本当に分からなくて困っている子はどうなるのだろう。もしかしたら、時間内にかかわれないかもしれない。そんな疑問がぐるぐるぐるぐる。確かに、ちょっとだけつまずいている子は、少しのヒントで前に進めます。一理ある。でも・・・でも・・・悩みました。そしてたどり着いた一つが、『先生信号』。

『先生信号』とは、先生を呼び止めるための信号です。画用紙で三角錐を作ります。その面に、「青」「黄」「赤」を塗り、先生に向けて出すのです。「青」は、「自分で解きたい。素通りしていいよ」。「黄」は、「少しだけヒントください」。「赤」は、「困ってる。助けて」。自分の気持ちの面を教師に向けるのです。それを決めるのは自分。できるだけ本人の希望に叶うようにと作りました。もちろん、「実力と違うよ」という信号もありました。そんな子には、ついつい、お節介を焼きたくなり、それがすぎると、「あっち行って」って追い払われました。

「青」だけど苦戦していたり、「赤」だけど、ただ話したいだけだったり。でも、集中してくると、何とか解きたくて、信号の色が変わっていくのです。本気度が信号に表れるというのは、楽しい発見でした。子どもたちのそばに行くときには、100均のホワイトボードを片手に、その子の欲しいであろうヒントを、書いては消し書いては消し。目の前の問題を解くという、ただそのことに集中できるのは、本当に楽しかった。

「赤」を出すと、必ず先生が来てくれるというのは、思いのほか、教室内に安心感を与えました。徐々に、「先生のヒントより、○○君のヒントの方がよく分かる」なんてことが起こり、「○○~、赤だ赤。来て~」なんて算数以外にも声が出るようになりました。

私の筆箱の中には、今も『先生信号』があります。懐かしく愛おしい思い出です。